2023年11月、ぬくもり工房 浜松本店のリニューアルをきっかけに、スズキ株式会社様に大切に保管されていた織機をお借りし、当店に展示をさせていただけるようになりました。100年以上前に製作された小巾織機で現存するものは、きわめて貴重な産業遺産。希少な織機を展示させていただく際にご相談に乗っていただいた徳光卓也さん(当時の広報部長)にお話を伺いました。

浜松の魅力のひとつとして、多くの人目に触れてほしい。

ぬくもり工房様から「織機を展示したい」とご相談があった際に、この地域を盛り上げたい!という強い熱意が伝わってきました。当社も浜松市に本社があり、地元へのこだわりが強い会社です。この地域にとってプラスになることですから、これは何とかしたいと感じました。スズキ歴史館などでしか見ることができない織機を、こうして店内に展示をしていただけることで、沢山の人目に触れることと思います。このような機会をいただいて、大変ありがたい気持ちです。

モノづくりのルーツである「織機」を通じて、
歴史の伝承のきっかけに。

スズキ株式会社の創業者である鈴木道雄は、1887年に浜名郡芳川村鼠野(現:浜松市中央区)の農家に生まれました。綿花の栽培が盛んな地域で、道雄は幼い頃から綿の収穫の手伝いをしていたそうです。10代半ばには大工に弟子入りし、7年間修業に励んでいましたが、日露戦争をきっかけに仕事が激減。大工の仕事がなくなったため、織機の修理を請け負い、その経験から織機に精通していきます。

1908年、大部分が木でできた(一部は鉄)足踏織機を一人で作り上げ、その第一号機を道雄は母に贈りました。それまで使っていたものに比べて10倍使いやすい、と感激する母を見て、道雄は自信をつけたそうです。自分が作った織機で母が喜ぶ、その体験が「人が喜ぶためのモノづくり」の原点となったのだと思います。

1909年には鈴木式織機製作所を立ち上げ、その数年後、格子柄の織物が織れる二挺杼足踏織機(にちょうひあしぶみしょっき)を製作。織機を改善する特許や実用新案は100件以上にも及びました。

しかし、織機がとても長持ちする製品で、買い替える必要があまりないために、織機の製作だけでは事業に一定の限界があると考えていた道雄は、1936年には自動車研究を始め、現在の主力製品である自動車や二輪車の発展へとつながっていきます。

こうした事業の移り変わりから、当社では1986年に織機の生産が終了してしまいましたが、このようなルーツを大切にしていただき、同じ浜松の地元企業として、これからも色々なつながりを持っていけたらいいですね。